ロルフさんがしてたニコラさんたちのお話が終わると、今度はバーリマンさんがペソラさんに声を掛けたんだ。
「ところでペソラ。ベニオウの実はちゃんと届いているわね」
「はい。持って来てくれたフランセン家の人たちにそのまま厨房に運び込んでもらって、今は冷蔵庫で保管しています」
ロルフさんがバリアンさんに、自分ちの人が近くにいるはずだからローランドさんを呼びに行くついでに声を掛けて錬金術ギルドに運んでもらってって言ってたでしょ?
そのおかげで僕たちが森から取ってきたベニオウの実は、ちゃんと錬金術ギルドの冷蔵庫に入ってるんだって。
「なら良かったわ。では、伯爵。色々な事で時間を取られてしまって時間もあまりありませんが、せっかくですから森から取ってきたベニオウの皮だけでも今日中に調べてしまいましょう」
「うむ。そうじゃな」
ホントは午前中にベニオウの実を採ってきて、そのまんまいろんな事を調べるはずだったでしょ?
でも僕が買ったお家を見に行ったり、ニコラさんたちのこれからの事を決めたりしてたもんだからもう夕方近くなんだよね。
だからポーションの実験はもうできないけど、でも採ってきたベニオウの皮を調べる事はできるから、とりあえずそれだけでもやってみようって事になったんだ。
と言う訳で、みんなしてぞろぞろと錬金術ギルドの厨房へ。
そしたらね、ペソラさんがたったったって冷蔵庫の方へ走ってって、扉を開けながらバーリマンさんに聞いたんだよ。
「調べるだけって事は、あまり多くは必要ないですよね? 何個出せばいいですか?」
「そうね。調べるだけなら1個あれば十分だけど、そんな聞き方をするって事は、ペソラ。あなた、調べるのは皮だけだからと言って実を食べるつもりね」
「ばれました?」
バーリマンさんに言われて、えへへって笑いながら頭をかくペソラさん。
ベニオウの実、とってもおいしいもんね。
ロルフさんとバーリマンさんが作ってみようって思ってるポーションは皮しか使わないって話だから、ペソラさんはその間に残った実を食べようって思ったみたいなんだ。
でも、どうせ食べるんだったらいっぱい食べたいでしょ?
だからほんとは1個でいいって解ってるのに、何個出したらいい? って聞いたんだってさ。
「まぁ、いいわ。せっかく冷蔵庫で冷やしてあるのだし、人数分出して切ってちょうだい」
「はい、解りました!」
「ただし、調べるのだからちゃんと皮はむくのよ? そのまま食べた方がおいしいからと言って、1個だけむいて後はそのままなんて事はしないように」
ちゃんと皮をむいて食べる普通のベニオウの実と違って、僕が採ってきた森の奥になってる実は皮に魔力がいっぱい入ってるからそのまんま食べた方がおいしいんだよね。
それはペソラさんも当然知ってるから、バーリマンさんはちゃんと皮をむいてねって。
「えっ、全部ですか? このベニオウの実、柔らかすぎてむくのはかなり大変なのですが」
でもね、それを聞いたペソラさんはびっくり。
だってこのベニオウの実、ちょっと力を入れて握っただけでも簡単に潰れちゃうくらい柔らかいんだよね。
だからそれを人数分、全部むくのはすっごく大変なんだ。
「それは解っているけど、このベニオウの実は実験のためにとわざわざルディーン君に採ってきてもらった物なのよ? 食べてしまう訳にはいかないでしょう」
でもね、バーリマンさんにこう言われちゃってもんだからペソラさんはしょぼんってしちゃったんだよね。
それを見た僕は、なんだか可哀そうになっちゃったんだ。
「バーリマンさん。僕ね、今日は頑張ってベニオウの実、いっぱい採ってきたんだよ。だからちょっとくらい食べちゃっても、多分大丈夫なんじゃないかな?」
「あら、そう? 少しくらいなら食べてしまってもいいの?」
「うん! だからね、ペソラさんが全部むかなくってもいいと思うんだ」
僕がそう言うと、バーリマンさんはちょっと考えたんだ。
でね、僕がそう言うんだったら、少しくらいはいいかなって。
「ルディーン君もこう言ってるし、全部むく必要はないわ」
「解りました。ありがとうね、ルディーン君」
「うん」
「ただし、皮つきで切り分けた後、全部の実のひとかけら1枚ずつ皮をむいて取り分けて置いて。そうすれば実によってどれくらい魔力量が違うのか調べることができるからね」
バーリマンさんはね、せっかく何個か食べる事になったんだから、その全部からちょっとずつ皮を取って調べてみたいんだって。
だからペソラさんは一個のベニオウの実を8つに切って、そのうちの一つだけの皮をむいてったんだ。
「このようなやり方でよかったですか?」
「ええ。伯爵、これくらいの大きさがあればいろいろと調べることができますわよね?」
「うむ。今日はあくまで皮の成分を分析するだけじゃからのぉ。ここからポーションを作ってみようと言う訳ではないのじゃから、これで十分じゃ」
でね、その皮を見たバーリマンさんとロルフさんは、これくらいあれば大丈夫だよって。
って事で川はいったんそこに置いといて、実の方をみんなで食べる事にしたんだ。
「おお。ベニオウの実は何度か食べた事があるが、確かにこれは別物と言っていいほどの美味だな」
このベニオウの実ってとっても柔らかいから、イーノックカウから村まで持って帰ろうと思ったらすっごく大変なんだよね。
だからお爺さん司祭様んとこにはお酒は持ってったことあるけど、実の方は持ってったことが無いんだ。
そんな訳で森の奥になってる方の実は初めて食べたんだけど、そしたらすっごくおいしかったもんだからびっくりしちゃったみたい。
「そうじゃろう。わしは初めて口にした時は、かなり驚いたものよ」
「うむ。帝国広しと言えど、これほどの果実は他の地でも出会った事は無いのぉ」」
お爺さん司祭様は、まだ偉い司教様だった時にいろんなとこへ行った事があるんだって。
でね、そういう時はおいしいものをいっぱい食べてたそうなんだけど、でもこのベニオウの実ほどおいしい果物は食べた事ないよって言うんだ。
「惜しむらくは、実がもろすぎて輸送に耐えられない事だな」
「うむ。わが……あ〜この街の領主も、もし運べるのであれば次の社交シーズンに帝都でふるまうものをと残念がっておった」
こんなに美味しいんだから、領主様もいろんな人に食べさせてあげたいなぁって思ったんだって。
でも柔らかすぎて運べないから、持ってくのはあきらめたそうなんだよね。
「社交シーズンにとな? それならばマジックバッグを使えばよいではないか」
「馬鹿を言うな。皇帝陛下への献上品なども運ばねばならぬのだぞ。所有しておるマジックバッグはそれらだけで容量がいっぱいじゃよ」
「ふむ。確かに、言われてみればそうかもしれぬな」
お爺さん司祭様の言う通り、マジックバッグだったら柔らかいベニオウの実でも大丈夫なんだよ。
でも領主様が帝都に行く時は荷物をいっぱい持ってかないとダメでしょ?
だからその中でも高いものはマジックバッグに入れて、護衛する馬車の数を減らすんだってさ。
「そして何より、今はまだルディーン君がおらねば収穫する事さえ出来ぬからのぉ」
「そう言えばそうか。確かにこの子がおらねば、いくら領主が社交の武器にと望んだとて手に入れる事さえできぬな」
ロルフさんとお爺さん司祭様はそんな事を言うと、二人して僕の顔を見ながらおっきなお口を開けてわっはっはって笑ったんだ。
休日変更のおかげで時間ができたからと、わざわざ過去の話まで読み返して準備をしたのに、ベニオウの実を食べて終わってしまったw
でもまぁ、おいしい果物を前にして実験ばかりと言うのもなんだから、こうなるのも仕方ないかもしれませんね。